睡眠薬の歴史

不眠治療のための睡眠薬の歴史は、1800年代にまでさかのぼります。睡眠薬は時代を経て副作用などが少ない安全性の高いものに進化してきました。

 

2010年代に入ってこれまでの睡眠薬のメカニズムとは違う薬が2つ開発され、今までの睡眠薬では効き目が薄かった方には選択肢が増えるという良い動きがきております。

 

不眠症を改善する方法や知識ではないですが、こちらのページでは今医療の現場で使われている睡眠薬がどのように進化を遂げていったのか、昔の睡眠薬と比べて今の睡眠薬は本当に安全なのか?を詳しく解説していきます。

初めての睡眠薬?

人を眠りに落とすという意味で麻薬や麻酔、アルコール、ハーブなどの生薬といった自然由来のものを含めると歴史はもっと古いですが、現在医療の現場で使われている睡眠薬の歴史は1800年代にさかのぼります。

 

1869年にベルリン大学で抱水クロラールという鎮静効果をもつ物質が合成によって生み出され、不眠症への効果が認められました。

 

抱水クロラールは鎮静、睡眠作用、けいれんを鎮める効果がありましたがアルコールと同じように、大量に摂取すると呼吸を止めてしまう危険性がありました。

 

さらに味や匂いが酷いうえに、治療に使う量と中毒症状が起きてしまう量の範囲が狭すぎるという問題もありました。

 

その後1907年にブロムワレリル尿素という睡眠に効果的な物質が作られました。しかしこちらも抱水クロラールと同様に大量摂取によって呼吸が抑制されて死亡してしまう副作用がありました。

 

日本でもこの成分が含まれた薬が過去に販売されており、大量服薬による自殺に使われるケースが多くなってしまったことから、市販の睡眠薬では配合量を法によって制限されました。

 

実は現在でも他の成分と合成されてはいますがウット、ナロンエースといった市販の風邪薬や睡眠薬に少量ながらも含まれています。

 

危険だが、画期的なバルビツール酸系睡眠薬の登場

 

ブロムワレリル尿素が生まれる少し前の1903年にバルビタールという薬が作られていました。これがバルビツール酸系と呼ばれる睡眠薬の分類の一番最初に名を連ねることとなりました。

 

バルビツール酸系はそれまでの睡眠薬に比べて、味や匂いの点でかなりの改善があるうえに、治療に使う量と中毒になってしまう量の幅が広くなっているという点で人気になりました。

 

その後も1912年にはフェノバール(フェノバルビタール)1923年に、イソミタール(アモバルビタール)1930年にラボナ(ペントバルビタール)と同様の薬がどんどん開発されバルビツール酸系という睡眠薬の分類を確立していきました。

 

このバルビツール酸系の特徴は、人の神経システムのなかで鎮静系・抑制系をコントロールしているGABAというシステムのなかのバルビツール酸系受容体という部位にくっつくことで直接脳全体の興奮を鎮めることです。

 

しかし、最も古い睡眠薬と比べれば様々な点で改良されているとはいえ、いまだに大量服薬による死亡、強力な依存性といった大きな問題が残されていました。

 

現在でも主流の安全なベンゾジアゼピン系睡眠薬

 

1900年代の前半は、バルビツール酸系が睡眠薬のトップに君臨していました。

 

しかし、1940年代にロシュ社(スイスの製薬企業)に勤めるレオ・スターンバックが今ではベンゾジアゼピン系と呼ばれる睡眠薬・抗不安薬の物質を偶然作り出しました。

 

その後それはリブリウム(クロルジアゼポキシド)という名前で1960年にアメリカで販売が開始されました。この薬は日本ではコントール、バランスという名前で知られています。

 

その頃にはバルビツール酸系の薬の危険性が広く知れ渡っていたために、より安全なベンゾジアゼピン系の睡眠薬が主流として台頭するようになったのです。

 

ベンゾジアゼピン系の薬は、GABAというシステムのなかでベンゾジアゼピン系受容体という部位にくっつくことで、睡眠・抗不安作用・筋肉の緊張をほぐす作用を発揮します。

 

それまでのバルビツール酸系は、睡眠作用以外の場所にも作用してしまったために他の副作用が多かったり、依存性が高かったり、呼吸を抑制してしまい大量服薬によって死亡する危険性が高かったのがネックでした。

 

しかしベンゾジアゼピン系睡眠薬は、睡眠や不安をやわらげる効果を発揮する場所以外にはくっつきにくかったので副作用が減り、依存性や耐性が作られるペースも遅くなっています。

 

一番重要なのは呼吸抑制をほとんどしないため、大量服薬によって死亡するという可能性が大幅に減ったことです。

 

その後1980年代に次世代の睡眠薬が出るまでに20種類以上ものベンゾジアゼピン系の薬が開発され、睡眠薬の王座をバルビツール酸系に取って変わりました。

 

どんどん改良されていく睡眠薬。非ベンゾジアゼピン系

 

1987年にプーラン社(フランスの製薬企業)が、アモバン(ゾピクロン)を販売しました。これが非ベンゾジアゼピン系と呼ばれる睡眠薬の歴史の始まりです。

 

ベンゾジアゼピン系と比べて、さらに睡眠作用に特化することで、さらに副作用や依存性を減らしています。耐性が作られるのもベンゾジアゼピン系と比べて遅くなっています。

 

現在日本国内ではアモバン(ゾピクロン)、マイスリー(ゾルピデム酒石酸塩)、ルネスタ(エスゾピクロン)の3種類が販売されています。

 

非ベンゾジアゼピン系睡眠薬は今のところ販売されているのが、3~5時間程度作用する短時間作用のものしかないため寝付きが悪い症状にしか使えないのがネックとなっています。熟睡できない、夜中に目が覚めるという症状には今でもベンゾジアゼピン系睡眠薬が使われます。

寝付けないときの睡眠薬~マイスリー、アモバン、ルネスタ

 

新しい作用の睡眠リズム調整薬「ロゼレム」

 

非ベンゾジアゼピン系睡眠薬が生まれてからしばらくは新しい睡眠薬が開発されることがありませんでしたが、2010年に日本でロゼレムという新しい睡眠薬が販売されました。

 

これまでの睡眠薬は体を鎮静させるシステムGABAに働きかけるものでしたが、ロゼレムはまったく違うメカニズムを持っています。人が元々持っている睡眠リズムを活性化させることで自然な寝付きを促進する作用です。

 

非ベンゾジアゼピン系よりもさらに進み、ほとんど依存性や耐性が作られるということがなくなりました。副作用も少なくなっています。

 

ただし、従来の睡眠薬のように飲んだその日からがつんと効くわけではなく、飲み続けることで段々と効くようになってくるという特徴があります。非ベンゾジアゼピン系睡眠薬と同じく寝付きが悪い症状にのみ使うことができます。

副作用依存性が少ない新しい睡眠薬「ロゼレム」

 

覚醒物質の働きを邪魔して眠気を作る「ベルソムラ」

 

2014年にロゼレムとも異なる作用で睡眠にアプローチしたベルソムラという薬が日本で販売されました。こちらは、人が覚醒している状態を維持する働きを持っているオレキシンという脳内ホルモンを一時的に邪魔することで眠気を起こします。

 

寝付きが悪い、ぐっすり眠れない、夜中に目を何度も覚ましてしまうといった不眠症の多くの症状に使うことができるバランスの良い睡眠薬です。

 

ロゼレムと同じように依存性や耐性が作られることがほとんどないと言われています(最近発売された薬ですので、今後もどんどんデータが蓄積されていくでしょう)。

 

しかし、一方では自殺思考が起きたり悪夢の副作用も認められているので、使用する際には慎重に他の睡眠薬と比較して選ぶ必要があります。これまでの睡眠薬の効果が薄い方には非常に高い価値があります。

 

まとめ

睡眠薬には「副作用が多い、依存してそれなしでは生きていけなくなる」、「自殺に使われることがある。危険性が高い」というイメージがつきものですが、それはもはや過去のものとなっています。

 

最近の睡眠薬は安全性がどんどん高くなっておりメカニズムも多様になってきており、多くの不眠症の方の頼れる味方になっています。